川崎市市民オンブズマン制度について

 豊田市では行政に対しての意見や苦情に対応する窓口として市民相談課があり、行政相談委員法に基づく行政相談員が市内には6名おられる。また、自治区長や市議会議員に相談を持ちかけることもあるが、行政に対する市民の苦情になかなか迅速に対応できていないことが多く相談できないでいる方々も多く存在している。
 今回視察に訪れた川崎市では、行政苦情への対応や行政監視の強化という考えから平成2年11月より市民オンブズマン制度が施行され10年の実績があり、今後豊田市においても制度導入におおいに参考にできると思う。

1、 制度導入の背景
@ S61.10、市民から市民オンブズマン制度を求める陳情が市議会に出され、市議会が陳情の趣旨を採択した。
A H1.11の市長選挙において現、高橋市長の公約として市民オンブズマン制度の導入が取り上げられた。
B 制度実現に向け市民フォーラムも開催され、制度化に向けての期待と関心が市民の間に高まりを見せる。

2、 市民オンブズマン制度制定過程

H1.12  川崎市市民オンブズマン制度研究委員会発足
H2.5   川崎市市民オンブズマン制度に関する提言を市長に提出
H2.7   川崎市市民オンブズマン条例が市議会で全会一致可決
H2.9    川崎市市民オンブズマンの人事が9月議会で全会一致可決
H2.11   川崎市市民オンブズマン条例施行

3、市民オンブズマン制度の設置目的

市民主権の理念に基づき,市民の市政に関する苦情を客観的に調査して、簡易・迅速に処理し,市政を監視し非違の是正等の措置を行うよう勧告するとともに,制度の改善を求めるための意見を述べることにより,市民の権利利益の保護を図り,もって開かれた市政の一層の進展と市政に対する市民の信頼の確保に資することを目的とする

4、市民オンブズマン制度の内容

@市民オンブズマンの管轄

市の機関の業務執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為で下記の事を除く事項が管轄
◆判決,裁決等により確定した権利関係に関する事項
◆議会に関する事項(陳情、請願が出されたもの等)
◆川崎市個人情報保護条例の個人情報保護委員の職務に関する事項
◆職員の自己の勤務内容に関する事項
◆市民オンブズマンの行為に関する事項

A市民オンブズマンの職務

◆市民の市政に関する苦情を調査し,簡易迅速に処理する
◆自己の発意に基づき,事案を取り上げ調査する
◆市政を監視し非違の是正等の措置を講ずるよう勧告する
◆制度の改善を求めるための意見を表明する
◆勧告,意見表明等の内容を公表する  

B市民オンブズマンの組織
◆定数は3人。そのうち1人が代表市民オンブズマン
◆人格が高潔で社会的信望が厚く,地方行政に関し優れた識見を有する方の中から,市長が議会の同意を得て委嘱
◆任期を3年。1期に限り再任可。月額報酬は78万円
市民オンブズマンとは別に職務に関する事項を調査する専門調査員(6名)がいる
◆事務を処理するため事務局(6名)がある
◆毎月1回、市民オンブズマン3名、専門調査員6名、事務局6名、全員で定例会を行なう。

C苦情の申立て
何人も,市民オンブズマンに対し,市の機関の業務の執行に関する事項や当該業務に関する職員の行為について苦情を申立てることができる。市民オンブズマンは、必ず1名は事務局にいる

D苦情の申立て手続き
◆苦情を申立てようとする方の氏名及び住所(法人その他の団体は,名称,事務所又は事業所の所在地と代表者の氏名)
◆苦情の申立ての趣旨、理由、苦情の申立ての原因となった事実のあった年月日
◆その他規則で定める事項
を書面や口頭により申立てることができる。専用用紙は公的窓口に置いてあり、用紙にはこだわらない。FAXも可。郵送も着払い封筒あり。また、苦情の申立ては、代理人でもできる

E市民オンブズマンの市の機関への通知
申立てに係る苦情又は自己の発意に基づき取り上げた事案を調査する場合は,関係する市の機関に対し通知する

F市民オンブズマンの調査の方法
◆苦情等の調査のため必要があると判断した時は関係する市の機関に対し説明を求め,その保有する帳簿,書類その他の記録を閲覧し、提出を要求し,実地調査をすることができる
◆苦情等の調査のため必要があると判断した時は関係人、関係機関に対し質問,事情聴取,実地調査をすることについて協力を求めることができる
◆専門的技術的事項について,必要があると判断した時は専門的機関に対し,調査,鑑定,分析等の依頼ができる
◆苦情等の調査を開始した後においても,その必要がないと判断した時は調査を中止、打ち切ることができ、その時は、理由を苦情申立人に速やかに通知する

G苦情申立人への通知
苦情の調査の結果については、苦情申立人に速やかに通知する

H市民オンブズマンの勧告と意見表明
◆苦情等の調査の結果,必要があると判断した時は,関係する市の機関に対し是正等の措置を求める勧告ができる
◆苦情等の調査の結果,必要があると判断した時は,関係する市の機関に対し制度の改善を求める意見を表明ができる
◆勧告又は意見表明を受けた市の機関は,当該勧告や意見表明を尊重しなければならない

I市民オンブズマンの報告と公表
◆勧告したときは,市の機関に対し是正等の措置について報告を求める
◆報告を求められた市の機関は,当該報告を求められた日から60日以内に,市民オンブズマンに対し是正等の措置について報告する
◆市民オンブズマンは,報告があったときは,苦情申立人に速やかに通知し、内容を公表する
◆公表に当たっては,個人情報等の保護について最大限、配慮する
◆市民オンブズマンは,毎年,この条例の運営状況について市長及び議会に報告し、公表する

J苦情申立ての受付状況
平成10年11月1日から平成11年10月31日までの第9年次1年間に,市民オンブズマンが受け付けた苦情申立ての件数は186件で,前年次の165件を21件上まわっている。苦情申立ての件数は,月によりばらつきはあるが,月平均約16件の苦情申立てを受け付けている。

Kその他
市民オンブズマン制度の照会について,事務局への電話による問い合わせは362件,そのうち苦情相談に関するものが198件,市内外の個人・団体やマスコミ関係者等からの制度の内容に関するものが71件,国及び他の地方公共団体からの問い合わせが93件ある。さらにインターネット「川崎市ホームページ」でも市民オンブズマン制度の紹介を行っており,利用件数は7,010件となっている。
 資料についても,市内外の個人・団体から34件,国及び他の地方公共団体から44件の請求。
川崎市の制度の調査研究のため,オンブズマン事務局へ来訪された外国及び他の地方公共団体(議会を含む)の数は25団体118人,研究者や一般市民も62人を数える。
制度の定着と市民の利便性を高めるために,市民オンブズマンへの苦情申立て書や年次報告書等を市役所・区役所・支所・出張所・市民館・図書館などに設置し、FM局を活用し,巡回市民オンブズマンの開催案内を放送するなど制度の周知を図っている。


L豊田市における市民オンブズマン制度について
今回の視察で川崎市がいかに市民の満足度向上の努力をしているかという事を短い時間ではありましたが垣間見ることができたように思います。この制度導入も現市長の高橋氏が市民ニーズをいち早く感じ取り、選挙公約として取り上げ、機運を盛り上げた結果だと思います。こうして政策決定された市長、並びに川崎市議会に敬意を払うと同時に同じ自治体である、豊田市にもできないはずがない。そう感じております。
 市民の満足度向上が現状の組織形態ででできないのであれば、組織の再編成やこうした新たな組織としての市民オンブズマン制度の導入が不可欠だと思います。私としては、ぜひ豊田市としても導入を前提とした調査研究をしてもらえるよう働きかけをしていくつもりである。