ISO導入先進都市、太田市について

まず、ISOとは、何か。国際標準化機構 (International Organization for Standardization)工業製品などの国際規格を制定する機関でスイスのジュネーブに本部がある。品質システムのISO9000シリーズと環境マネジメントシステムのISO14001が代表的である。


1、太田市のISO導入の背景
 太田市は群馬県東南部に位置し、人口は14万7,000人、工業製品出荷額は1兆4,927億円(平成10年度工業統計調査)で県下第1位、北関東第2位の内陸生産拠点となっている。太田市内では顧客志向の製品を作るため、自動車関連を中心にISO9000sを取得、または活動中の企業が数多くあり、ISO導入による効果をあげている。
 太田市における導入のきっかけは、平成10年1月清水市長の「ISO9000の認証を取るぞ」という一言で始まった。昨今の非常に厳しい経済情勢下、新しい時代の行政課題に対応するためには行政改革、職員の意識改革が必要であった。行政の課題は、今日のような厳しい経済状況の中でいかに限られた財源を効率よく使うかということである。サービスが同じであれば、より安く、経費が同じであればより質の高いサービスを提供するのが行政の責務であり、そのために常に問題意識とコスト意識を持ちつづけることが重要との考えから行政改革の一環として、職員の意識改革を行う手段として平成10年4月より活動を開始。また、新しい試みには、リスクがつきまとう。市長、職員一同「変える」勇気を持って意識改革を進めている。

2、太田市における行政改革
 行政改革というと、すぐに「経費削減」ということになるが、大切なことは「節約したお金をどうしたのか」ということ。
太田市が掲げる行政改革4つの柱

第1の柱  「行政はサービス産業」
第2の柱  「市民の目線」
第3の柱  「コストと効果」
第4の柱  「人材の発掘・育成」
4つの柱を基本に事務事業の見直し(スクラップ&ビルド)を行う。
ISO9001の認証取得は事務事業の見直しにおける4つの柱の集大成。

3、ISO導入の意義
業務が市民に不透明、職員によって事務処理に差がある、納税者に対するサービス意識が欠落している等、市役所の仕事はとかくこのような批判を受けがちで、市役所は市内最大のサービス産業でなければならないと考え、こうした批判を受けることなく効率的で良質なサービスを低コストで提供するためにISO9001(品質システム)を導入した。

4、ISO導入の効果
@組織や職員の責任、権限、業務範囲が明確化。
A業務手順のマニュアル化(業務指示書の作成)により職員の流動的な活用が可能。
B市民の苦情・要望に対する処理システムが構築され、これを分析することにより市民サービスへの転化が図られる。
C常に市民の視点で業務をとらえ、サービスの改善・効率化が図られる。
D審査機関による6カ月ごとの定期審査、職員による内部品質監査が義務づけられているためサービスの「質」が維持できる。

5、平成10年度認証取得活動
 市民に低コストで高品質のサービスをできるだけ速く提供するシステムを構築するために認証範囲を市民窓口部門の市民課及び保険年金課として平成10年度中の取得を目標とした。

(1)コンサルタント
 (株)東レ経営研究所を選定。
ISOの要求事項が製造業中心の内容で書かれておりサービス業への適用には読み替えが必要で全国の自治体においても例がないので
@審査員の資格を有するコンサルタントが派遣できる。
A職員研修に実績がある。という理由により選定

(2)審査登録機関の決定
 30団体ある審査登録機関の中から、JQA(財)日本品質保証機構を選定。
選定理由
@ 公共行政の審査が行え、審査登録実績、審査員の数が多い日本最大の審査登録機関。
A 昭和32年通産省の管轄により、輸出検査法の指定機関として設立その後、電気製品の安全性認証、計量校正・検定業務の品質保証に関する業務を行っている実績。

(3)事務局の設置
  平成10年4月に秘書課にISO事務局を設置。職員2名    

(4)市民課及び保険年金課の推進体制
  市民課及び保険年金課において中心的な活動を行うワーキングリーダーを各係より5名選出。事務局職員と一緒にコンサルタントよりISOの要求事項の解説を受ける。ワーキングリーダーは各係の業務指示書作成の指導にあたる。

6、文書体系
 ▼品質文書
 ◎品質マニュアル
 ISO9001の要求事項に適合させるため、本市の品質システムの基本を文書で規定したもの、品質システムの最上位文書


 ◎規定類
  品質マニュアルを補足する文書類で、品質システムに関してより具体的な管理手順を定めた文書類(11規定)である。
 ◎業務指示書
  品質に影響する業務に対して、品質システムの要求事項を満たすための手順、手段、方法等を定めたもの。(フロー図、補足説明資料、関連資料)






◎業務文書
  国の法令等、県の条例等と太田市の例規類集の中から関連する条例、規則、規定等、一般文書、図書等で業務に使用するもの及び各規定に定める記録、実施部門において仕事をした証として定めた記録。

7、継続的な活動について 
市民サービス方針に基づき、毎年「年度目標」を定め、実施部門においては、年度目標を達成するため各課の施策を定め、活動を行う、内部品質監査、是正処置等によりチェックを行い、年2回のマネジメントレビューにより市長から評価を受け、反省点を踏まえながら活動を行う。目標達成に必要な事項については、教育・訓練等で補い、ルール化されたとおり実施した証として必要な書類を品質記録として保管する。

(1)市民サービス方針と年度目標
 @ 市民サービス方針「小さな市役所で大きなサービスを提供」
 この方針の意味は、「市民にできるだけ高い品質のサービスをできるだけ多く提供したい」という使命感から、時代の要請に合ったサービス体制をつくり、市民のニーズに即した効率的で良質なサービスを、低コストで提供することにある。「市役所は市内最大のサービス産業である」という認識のもと、職員の意識改革を図り、市民とともに行政サービスの向上を目指している。
 A 平成10年度の年度目標
・市民要望にそったサービスの提供
・市民により近い場所でのサービスの提供
・広域行政サービスの推進を図る
・職員資質の向上に努める

(2)内部品質監査
  ISO要求項目4.17項でISOによる品質システムが維持されていることを検証するために、内部品質監査活動を行うことが要求されている。コンサルタントを講師に3日間研修を実施、21名を内部品質監査員として認定した。認定者による内部品質監査を3回実施。内部品質監査により発見された不適合については、原因の追究と他の類似点の調査を経て是正処置立案をしてもらい実施効果の確認については次回の内部品質監査時に確認を取るという方法でチェック機能を果たしている。

(3)マネジメントレビュー(市長による見直し)
  ISO要求項目4.1.3項において市長は品質システムが引き続き適切かつ効果的に運営されることを確実にするに十分な見直しを年2回(9月と3月)及び必要に応じ行うと定められている。
  (マネジメントレビューの項目)
  ・市民サービス方針の実施部門における展開実施状況の報告
  ・市民からの苦情・要望の報告
  ・内部品質監査の結果報告
  ・是正処置・予防処置
  ・組織の大きな変更
  ・関連法令等の変更
  ・ISO9001の要求事項の変更
  ・品質マニュアルの改訂
  ・市民サービス検討委員会の活動報告
  ・その他(予備審査の不適合の対応方法等)

8、登録審査
   平成11年2月23日から26日まで審査員2名で実施。
    市長へのインタビュー(4.1経営者の責任)
    品質システム管理責任者(4.2品質システム、4.17内部品質監査)
    市民課及び保険年金課(上記以外のISO要求項目)

9、取得費用
  8,000千円 (H10年度)  
    内訳
     コンサルティング料   5,000千円
     (ISO規定要求事項の研修会、品質文書の指導等)
     審査登録手数料     3,000千円
     (認証範囲の職員66名 マニュアル審査、予備審査2回、本審査)
定期審査手数料      700千円/年間(2回)

10、ISO導入の効果と課題
(1)導入効果
 内部メリット
 ・曖昧さのない組織の構築
   組織や職員の責任・権限、業務範囲の明確化
 ・業務に対する意識の改善
   業務のフロー化により 一人二役、三役が可能
 ・職員に対する組織的な教育・訓練
   時代に即した研修の実施
 ・コミュニケーションの改善
   「縦割り行政」の改革
 ・文書類の一貫性や管理の確立
   各種業務の関連文書の整理と管理
 ・市民の要望・苦情に対する処理システム構築
   クレーム等に対する是正・予防処置の実施
 ・新任職員への引継が容易
   業務指示書作成により新任職員への情報提供が短時間で可能
 ・職員相互のシステムチェック
   内部品質監査により、他の部門の職員が業務やシステムチェックを行う
 対外的なメリット
 ・市民との関係の強化
   市民からの苦情・要望を分析し、市民サービスに転換できる
 ・定期審査による質の維持
   審査機関による定期審査(6ヵ月ごと)により業務内容の「質」の維持                 
 ・サービスの改善
  市民からの視点で業務をとらえサービスの改善と効率化が図れる
 ・職員の意識改革
   「親方日の丸」から「市役所は市内最大のサービス産業」へ意識の変革

(2)今後の課題
ISOの認証を取得したからといってすぐに太尚市の行政サービスの水準が上がる訳ではない。ISOの取り組みは認証取得がスタートであり、これからのシステム改善をいかに行うかが課題である。認証を取得した市民課及び保険年金課の管理職と一般職員の自覚と研修をとおしたモラールの維持と内部品質監査員の改善・改革の活動に負うところが大である。ISO担当としてもルール化されたとおりという視点からいかに効率よく業務遂行されているかという視点で内部監査を実施する。また税金を投入して認証取得したため、導入効果を市民に見える形で提供する。今後、新しいサービス形態を模索する市民サービス検討委員会等のアンケー卜分析による提言、市民からの苦情・要望をいかに業務に生かしていくか検討。品質システムの命であるISOに携わる職員は常に意識し活動を継続的に行う。
 また「ISOのまち 太田」として全国に情報発信を行く。
 平成11年度については市民サービスの更なる向上をめざし、取得部門の拡大活動に取り組み、本庁の健康福祉部、市民課の2サービスセンター(ショッピングセンターへ市民課の窓口を設置)への拡大を始めた。
 部門は健康福祉部5課(社会課、福祉課、高齢対策課、介蓮保険課、児童家庭課)及び市民課の2サービスセンターである。
 社会的弱者の訪れる福祉部門では、困ったことがあればここに相談すれば安心という感覚を市民に持っていただくため、窓口の対応に重点を置いた活動とした。
 市民課サービスセンターにおいては、利用者アンケー卜結果から、市民の利便性向上を第一に市民課業務だけでなく、税関係業務も行う。
ISO取得企業に対する支援として平成12年度より市内でISOの認証を取得した企業に対し、取得費用の一部を奨励金(上限100万円)として助成し、側面から企業支援を行っている。
 市民にわかり易い組織にするために平成12年度に大きな組織改革を行う。保育所や幼椎園など児童に関することは「こども課」とし従来の教育委員会と福祉事務所の壁を取り払った。また、お年寄りに関することは虚弱者を対象とした「介護サービス課」、健常者を対象とした「元気おとしより課」とした。
さらに、市民の苦情や要望を24時間受ける窓口を設置し「いつでも、どこでも、だれでも」市行政と関わりがもてる組織とした。
 二年間の活動で、ISOは職員に浸透したが、まだ業務とISOを乖離させている者も見受けられる。
平成12年度は、ISOの定着と2000年版への対応を中心に取り組み、市民サービスの向上に向けた業務の継続的な改善活動を行いたい。また、環境ISOについても12年度を準備期間として13年度取得に向けた取り組みを進める。

11、「ISOのまち 太田市」の取り組みを豊田市にどのようにいかしていくか。
    本市もISO14001取得に向け取り組んでいるため、もうすでにISO9001の認証を受けており、更にISO14001取得に向け取り組んでおられる太田市をISO取得の先輩として注目していた。やはりと言うべきか、1億円の保証金を払ってまでも21階建ての新庁舎建設計画を12階建てにしてしまうという市長ならではの「トップの鶴の一声」に市職員が精一杯の努力をしての認証取得であったようだ。
     事業者へのISO取得のサポートでは本市同様、取得経費の一部を助成する制度があるが、本市では上限50万円、太田市では、上限100万円。この金額の根拠が明確に聞けなかったことは残念であった。
     なぜ、環境マネジメントシステムのISO14001でなく品質マネジメントシステムのISO9001を先にしたのかとの質問に対して企画部秘書課ISO推進係係長の朝倉博康さんは、次のように答えられた。「環境ももちろん大切であるが、市民へのサービス向上を図るうえで自治体の足腰を鍛えるのが先であるとの考えから」と。もちろん、品質も環境もどちらも大切である。本市においてもISO14001認証取得後には、ISO9001の取得にも積極的に取り組むべきと考えます。また、太田市では、「究極的には職員による内部監査が充実してくれば外部監査の必要性はなくなるのではないか。」とも言われた。
      ISO認証取得というブランドにこだわるのではなく、あくまでも「市民へのサービスの向上が本来の目的である」というこうした考えが、清水市政の下、今後、市職員全体に広がるような気配を太田市で感じ取った視察であった。
     本市においても鈴木市政の下、特別職、職員、議員が一丸となり、市民第一の豊田市政実現に向け取り組まなければならない。